「暑い時に運動を行う時のルール」暑熱下環境における管理

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既に皆さんもニュースで知っているように,学校管理の状況においても,非常に重篤な例として年間数件の熱中症による死亡事故例が報告されています.軽症においても下記のような問題が報告されています.


パフォーマンス低下 

熱中症にならなくとも,喉の渇きがある状態でさえもパフォーマンス低下が生じると言われています.体重の 約 2%脱水により 約 10%低下 すると調査結果が報告されています.例えば,体重60㎏の選手なら1.2㎏に相当します.そのため,特に夏場は運動前後で体重チェックして,不足に従って水分摂取を心がけましょう.

熱中症 

熱中症とは熱失神・熱痙攣・熱疲労・熱射病の総称で,場合によっては緊急の治療を要する場合もある状態です.
以下は簡単な説明となります.

  • 熱失神(ねつしっしん):皮膚血管の拡張により,皮膚血管を流れる血液が多くなります.その結果,脳血流の低下が起こり,意識低下が生じます.
  • 熱痙攣(ねつけいれん):暑いと体から多くの汗が出ます.その多くの汗により電解質(ナトリウムやカリウムなど)の喪失が起こります.電解質がないと筋は上手く収縮しません.その結果,筋の不随意収縮が生じます.不随意収縮とは意識せずとも勝手に起こる筋の収縮で,別名を痙攣ともいいます.
  • 熱疲労(ねつひろう):汗により体の中の水分が少なくなります.そうすると,体の中を循環する血液も少なくなります.もちろん血液は体のエネルギーの源であったり,代謝産物を運ぶために非常に重要ですし,更には血圧の低下が生じることで,体の隅々に血液が上手く回らなくなります.そのため,疲労感等の様々な反応が出現します.
  • 熱射病(ねっしゃびょう):熱を下げるために汗がでますが,その汗もでなくなってしまうほどの長時間の高温環境では,体温は下がりません.このように,高体温が持続することにより体温調節のシステムが障害され,更には既に熱疲労・熱失神のような状態にもなっています.それよりは更に重い症状となります.結果的に脳や体の様々な臓器が上手く働かなくなり,意識障害や臓器障害となります.

警戒すべき環境

一般に,乾球温度計31度・湿球温度計24度ではの場合には熱中症の警戒が必要とされます.
ちなみに,乾球温度計の場合に2019年の東京都の最高気温で31度を下回った日は6日(8/1~8/31)のみでした.

一方で,湿球温度計の場合には,もちろん湿度にも大きく影響を受けます.
これには,湿球黒球温度(Wet-bulb Globe Temperature:WBGT)という温度計で測定された温度を基準に,
その日の練習量・時間帯・休息・水分摂取,等を調節した方が良いとされています.
最近では,デジタル式であれば安価なものもあります. 3000円程度で購入が可能であると思います.

熱中症への予防 

練習量・時間帯・休息・水分摂取の調節が練習前から計画して,
練習前・練習中,そして練習後と対応策を実施すべきとされています.


また,睡眠不足や風邪で練習を数日休んでからの初日,長時間移動後など,
そもそも運動前に体調不良である場合には,
選手本人の体温調節機構が既に崩れている可能性があり,

より熱中症になりやすいことも考えられます.

ですので,選手個々のコンディションの確認も必要となります.

適切な水分摂取 

競技の内容・強度・時間によって調節する必要があります.


1-2時間で終了する トラック競技の場合,

  • 水分摂取は競技前に250-500ml
  • 競技中に500-1000ml
  • 水分摂取に好ましい水温:5-15度
  • 発汗に伴う電解質を補うため,塩分0.1-0.2%,糖分3-6%を含んだものが有効

とされています.

味の嗜好のため市販のスポーツ飲料本体を水分で薄める場合には電解質濃度も薄まらないよう工夫が必要です.
例として,国際オリンピック委員会・FIFAワールドカップ公式スポーツ飲料である,日本コカ・コーラ株式会社が発売しているアクエリアスは塩分0.1%,糖分4.6%とされています.推奨されている電解質濃度において理想的ですが,水分で薄める場合には電解質濃度も薄まってしまい,電解質飲料を飲む意味が無くなってしまいます.

そこで最近では「経口補水液」と記載されているアクエリアスもあります.これは,通常のアクエリアスよりも電解質濃度が高く,発汗が非常に多い場合の飲水には特に有効とされています.


モニタリング

上記したように,発汗による脱水量を管理するために,簡単な方法として体重計の利用があります.試合前後や練習前後で体重変動があればその分の水分摂取が望ましいでしょう.

また

尿の色から,脱水や電解質の程度を知ることもできます.尿量が少ない,あるいは尿色が濃い場合,必要に応じて補水することも行うこともあります.

 

その他

 

軽症の熱中症,あるいは熱中症と同様のメカニクスで運動中に筋痙攣が生じることがあります.
その筋痙攣に対する画期的な飲料が2016年頃でしょうか・・・? 発明されています

この商品に関する研究が近年報告されているようです.
学会レベルが主であり,論文ベースはまだしっかりとした内容のある論文は見当たらない状況です.もう少し調べてみます.
http://www.teamhotshot.com/
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運動誘発性の筋痙攣

その原因として
脱水説には限界があり,必ずしも脱水が影響していないケースがあります.
神経筋疲労説には研究手法の問題があり一致した結果とならない場合もあります.

数少ない調査結果から予防法としては
飲水以外に,
ゴルジ腱に対するプライオメトリックトレーニングや
細胞内環境改善のためエンデュアランストレーニングが
有効とされてます(いずれもレビュー論文を参考にしており,最新でも2004年)

繰り返しとなりますが,その科学的根拠は限定的です.

以上,2010年くらいまではそのような認識でした.
その後,2016年までに数本関連論文あり,

運動誘発性の筋痙攣の原因は神経筋,あるいは神経筋接合部における問題であると指摘されています

そして,2015年ごろにノーベル化学賞受賞者が新仮説を発表し商品化しています.
Wasabi Receptorともいわれる口腔内の受容器に対する適刺激となる物質が含まれる飲料を飲むと,
神経脊髄レベルで興奮が抑制されるとのことです.
既にドーピングへの対応を行われていますが,今のところ日本のアンチドーピング機構であるJADAの認証は受けていません.
そのため競技系アスリートの方は十分注意が必要ですね.

いずれにしても
未だ臨床研究が少なく,これから更に解明が期待されているようです.

参考

日本体育協会:熱中症対策のための運動指針 .

http://www.japan-sports.or.jp/medicine/tabid/922/Default.aspx > (Accessed by 2017.3.26)

日本コカ・コーラ株式会社:アクエリアス.

http://j.cocacola.co.jp/info/faq/detail.htm?faq=18325 >

(Accessed by 2017.3.26)

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